CANADA'S WINDVIEW

趣味の写真を投稿していきます。昆虫好きな長男と一緒に昆虫を追いかけています。最初の年はセミやカマキリ、次の年はカブトムシ、トンボ、そして今年は…

年中絶えぬ塩焼く煙

蒲郡市博物館 企画展「塩津の歴史」資料(平成30年7月21日~9月2日開催)として配布されていた記事です。部屋を整理していたら出てきたので、デジタルデータにしておこうと思い立ちました。

塩津村とは今の蒲郡市の塩津小学校・中学校学区に相当する地区にあった村です。

現在の町名では、竹谷町柏原町・西迫町・拾石町・鹿島町辺りです。

この塩田は現在は埋立地で主に工業地帯となっていますが、「太田新田」「浅井新田」等交差点名や住所に残っています。

また、この「昔ながらの塩づくり」を学ぶために塩津小学校校庭内には塩田が作られ、総合学習の授業で活用されているとのことです。

 


大阪朝日新聞 昭和5年(1930年)3月22日号

 

年中絕えぬ鹽燒く煙

女性中心で爭議も絕無 愛知縣の鹽津村

 

村の婦人

(しほ)()(むすめ)――(しほ)()く女(ほう)(たち)――外(かん)(てき)(かい)()(てき)(ぜう)調(てう)(ほう)()()つてゐる(せい)(えん)の村。(あい)()(しほ)津村は東海(どう)(せん) 蒲郡(えき)を西に一マイル、(しほ)(やき)小屋を(はい)(けい)(かつ)(やく)してゐる彼女(たち)こそ(むかし)から三河女の(はたら)きは男をしのぐといはれた(かた)(くさ)の如く、へまな男は(あし)もとにも(およ)ばぬ(かつ)(どう)()りを(しめ)してゐる

   ◇

村民の主(げう)(のう)(せい)(えん)(ふく)(げう)(てき)(いとな)まれてゐるため(えん)田の仕(こと)(しほ)の汲()みから(しほ)()(まで)(ほとん)ど女の手ですゝめられてゐる、昨年十月の(えん)(せい)()(そう)(たん)(べつ)十四町七(たん)()十四歩の(やく)三分の一を(うしな)つたので今年の(しゅう)(かく)()(ほど)()るらしいが(せう)和三年度の生(さん)(がく)は三百五十(そう)()(かく)十一萬一千()(えん)だつた

   ◇

夏になるとお(ばあ)さんから子(ども)まで一家(そう)(どう)(いん)(はたら)くが、年中を(つう)じては女(ほう)(れん)(むすめ)(たち)(ひと)()(たい)、この地方は名物の鬼谷颪※2(まい)年十月中ごろから(よく)年四月中ごろまで()(つゞ)くので(えん)田の(かわ)きが()常に(はや)く、冬でも(かに)(こう)()()たショビヤ(方(げん)(しほ)小屋のこと)に夜ひるなしに(けぶり)が上がつてゐる

   ◇

朝は(はや)くから子(ども)の學校ゆきの世()と男(たち)を田()(おく)り出す(すい)()(たん)をすまして(すげ)(かさ)に手(こう)脚袢の姿(すがた)かいがいしく(えん)田に立(はたら)く、しかも(せい)(えん)(そう)()三百年の(なが)(れき)()の間に(えん)(そう)()と名づけるものが一回も(おこ)らなかつた()(じつ)は母(おや)から(むすめ)へと女(せい)が中心となつて(はたら)いてたためで、彼女たちのゆるやかな(うた)(むかし)ながらの大(なべ)(しほ)(つゝ)んで(りん)町の文()()りとかけ(はな)れたクラシカルな平和さを(たも)つてゐる

 


 

※1 本文の漢字・振り仮名・仮名遣いは可能な限り原文に近い形での再現を目指しました。

※2 鬼谷(おろし) … 海谷颪。幸田町深溝の海谷方面から吹いてくる風をいう。(この語句解説は蒲郡市博物館により付けられたものです)